今回は船唄の抜粋の巻・・・
「順序としてまづ私の郷土(広島県安芸郡中部)に唄はれてゐる物からはじめよう。
この、郷土の唄だけは先年発表した稿に基き、それを其後、蒐集したものを加えて説くことにする。
断っておくが「郷土の唄」と一口に云ってもここに集めたものは必ずしも郷土で生まれ郷土のみで唄はれてゐる(もしくはゐた)唄ばかりではない。
殊に古い時代の唄には、それが純郷土的のものか、または一般に流布した流行小唄の類に属するものか、そこにはっきりとした断定を下し難いものがある。
そのへんは厳密な区分をせずに置いた。
イ 船唄
金色の柑子が目に輝く芸南の高畑に立ち尽くして紫になごみ渡った沖合いを見渡せば、大島小島は薄く濃く霞に浮んで、瀬戸内海はまさに一幅の画図である。
この美はしい内海を西に東にすべり行く舟はさながら遠い夢の国から流れてくるような唄声を波の上に伝える。
その暢やかな、(のびやかな)しかも形状しがたい放大な音調は、いかに良く彼ら船人の生活と情趣とを表現せるかに思はしめる。
但しに採譜した旋律Aはこの船唄が私の郷里の農村で農民の作業歌として転用されているものであって真の船唄の原型を完全に保有していない。
俗間よく唄われている舟歌としての旋律はいま少し単純素朴なものである。
Bの如きがまづ略ぼ原型に近いものであろう。
左に掲げた歌詞は最も人口に膾炙せるものである。
♪ヤァレ船頭可愛や音戸の瀬戸でヨウ、
一丈五尺の櫓がひわるヨウ(または「しわる」)
♪沖の暗いに白帆が見える
あれは紀の国蜜柑船
これもよく人に知られたものである。
この歌詞は岡山県小田郡の船唄として文部省の本に出ている。
広島県の部には載せていない。
(俚謡集拾遺281頁参照)続きを読む

